羅臼岳、揺らぐ安全神話ー安全から管理へ
どうも。自然文化団体ノノオトの小林です。
少し気になることがあります。
2025年夏、羅臼岳周辺では、子グマ2頭を連れた親子ヒグマの出没が相次いだ。
登山道やその周辺での滞留、人間への接近、さらにはクマスプレーを受けても離れないなど、これまでの知床ではあまり見られなかった行動が確認されている。
羅臼岳への登山は、あくまで任意のレクリエーション活動。
しかし一度事故が起きれば、救助に向かう人々(警察・消防・地元ガイド等)には大きなリスクが伴います。
「自己責任」という言葉だけでは片づけられず、救助を行わないという選択は倫理的にも難しいのが現実です。
このまま自由利用を続ければ、事故のリスクはもちろん、自然遺産としての価値や国際的評価にも影響を及ぼしかねません。
こうした状況を踏まえると、羅臼岳の利用形態を見直し、「安全確保」「植生保護」「保全費用の公平負担」を同時に実現できる新たな管理モデルを導入することが不可欠なときに来ていると感じます。
この導入文を書いていたのが8月13日。
その翌日の8月14日。
登山者がヒグマに襲われ、登山道脇に引きずり込まれるという重大な事案が発生してしまったのです。
これまで「羅臼岳のヒグマは人に執着しない」という認識を持っていた人も少なくありませんでしたが、今回の事故はその前提を覆す出来事となりました。
羅臼岳への入山にかかる制度等の整備について
1. 背景
羅臼岳への登山等の行為による踏み入れは、生活を送る上での必須の活動ではありません。
しかし、近年のヒグマ遭遇事案、登山道外への踏み込みによる植生被害、残飯や食料匂いによる野生動物の行動変容など、安全面・環境面ともに重大な課題が顕在化しています。
事故や遭難が発生すれば、救助に向かう人員(警察・消防・ガイド等)に生命リスクが伴い、倫理的にも救助を拒否することは困難です。
さらに、世界自然遺産知床においては、外来影響・植生損傷・野生動物の人慣れは、国際的な評価低下につながります。
2. 現状の課題
・安全確保の不十分さ
自由登山ではヒグマ接近時の適切な回避行動が徹底されず、危険が高まっている。 救助要請時に現場到達まで時間がかかり、二次被害リスクが高い。
・植生および生態系の損傷
正規ルート外の踏み込みによる高山植生の破壊。 野生動物との不適切な接近・撮影による行動変容。
・費用負担の不公平性
登山による管理・救助・保全コストが税金に依存しており、自然を利用する者の直接負担が機能していない。
3. 提案概要
羅臼岳を「管理型登山モデル」に移行し、安全・植生保護・保全費用の確保を同時に達成する制度。
3-1. 正規ルート外の立ち入り禁止
理由:植生保護および世界自然遺産価値の維持。 違反者には即時退去要請および再入山制限。 現地標識と事前説明で周知徹底。
3-2. ガイド同行必須制
理由:安全確保・植生保護・ヒグマ遭遇時対応の迅速化。
認定ガイドのみ同行可能とし、衛星通信端末・威嚇用具(クマスプレー、爆竹等)必携。 ガイドは登山者の行動監督と環境保全指導を担う。
3-3. 利用料(保全協力金)徴収
理由:自然保護活動費、監視員人件費、通信設備維持費の確保。
使途の明示も必須。
3-4. 事前教育の義務化
入山前にオンライン講習(ヒグマ対応・植生保護・行動規範)受講必須。
修了証提示を入山許可条件とする。
3-5. 入山管理
事前予約制(人数制限・時間帯制限を設定)。
登山口で入山者・ガイドの確認を行い、記録を保全データとして蓄積。
4. 期待される効果
・事故および遭難リスクの低減
ガイド同行により危険回避行動が徹底され、救助件数の減少が見込まれる。
・植生および生態系保護
ルート外立ち入り禁止で高山植物と希少生物の生息環境を維持。
・野生動物の人慣れ防止
食料管理の徹底と接近防止によるヒグマ行動変容の抑止。
・費用負担の公平化
利用者が直接保全費を負担し、管理コストの税金依存を軽減。
・世界遺産ブランド価値の向上
「守られた山」として国際的評価を維持・向上。
5. 検討事項
認定ガイド制度の運営主体(自治体・観光協会・国立公園管理団体など)。 違反者対応の法的根拠と執行手順。 利用料の具体的金額設定と徴収方法。 実施開始時期と周知期間。 初期投資(通信端末、標識、教育コンテンツ制作)の財源確保。
6. 提案の方向性
羅臼岳は「誰でも自由に登れる山」から、「責任と対価を伴って安全のもと楽しむ山」へと位置付けを変えるべき段階に来ています。
これは「登山者を締め出す」制度ではなく、利用者を自然保全の担い手とし、世界自然遺産を未来へ継承するための共同管理モデルです。
登山に関する記載になっておりますが、もちろん登山に限定するものでなく、写真撮影やその他アクティビティなど、国立公園の保全活動以外の活動全てに該当する内容になると考えます。
これは小林が、「こうだったら自然は保たれるかな?」と海外や日本国内の国立公園などを訪れて感じたことです。
もちろんいろいろな意見があり、配慮が行き届いていない部分もあるかと思いますが、表現することで足りない部分への気付きになると考えております。
建設的な議論が進んでいくことを願います。