先にお伝えしておきますが、決して楽しいお話ではございません。
しかし、知床半島で起きた事実であることに変わりはなく、野生と人間の間で起きている出来事のひとつとして、興味関心のある皆さまと少し、共有させていただきます。

「MKと呼ばれた親子」に起きた行動の変化と予期せぬこの後の運命に触れる

もう7年も前のことです。当時残した観察メモを発掘し綴っていきます。

この写真に写るヒグマの子ども。
この子ども親との1枚はこちら。

左側の大きいヒグマが展示している、子どもの親で「MK」というコードネームが知床財団によって付けられていた個体である。

このヒグマに初めて出合ったのは、2018年の春。

そんな草木も生い茂っていない森の淵を、親1頭、子ども1頭で歩くところに遭遇したのが始まりである。

そのときは距離もあったこと、私の動きに気付いた途端に、深い森に姿を消していきました。

2回目の出合いは、それから半月ほど経過したころ。

走行中、道路脇すぐのところに姿があったが、自車が近づくと森の中へとまた消えていった。

当時のメモには、「野生なら当然の警戒心か」と残していた。

異変は起きていたのかも知れない

3回目の出合いがこの写真のとき。内心「ラッキー」と思った。

周りには人もいない。道路から見える位置。それも拓けた場所にいた。

距離もあったし、車外に出ることもなかった。

警戒する要素は少ない状況にあるとされたが、それにしてもこちらを気にするそぶりはまったく見えなかった。

2回目との出合いの間に2週間と開きがなかったが、抱く印象が少し変わってきていた。

「なんか変わったかも」

メモにはそう記していた。

森の中へと足が向かない。

現場を離れ1時間ほど用事をし、戻ってくるころには、車が5台停車。いわゆるクマ渋滞(bear jam)と言われる現象だ。

その中には、降車して親子に近づく姿もあった。

声をかけたりもして車に戻る人や移動してくれた人もいたが、頑なにヒグマから離れない人もいた。

電波の届かないエリア。センターに立ち寄り、事態を報告したのであった。

気のせいでは済まされない事件発生

そんな違和感を覚えた月末だ。

その親子が、生ゴミを食べている現場が目撃されたのであった。

「なんか変わったかも」という少しの違和感は正しかったのかも知れない。やはり行動が変わってきていたようだ。

その後も、月に1度程度、移動中にこの親子の姿を見た。

そのすべての出合いが移動中の道路沿いで、観光客による渋滞やカメラを持った人の動きでその存在に気が付いたのであった。

そのうち幾度か、知床財団やウトロ派出所へ連絡をし、現地へ向かってもらうなどをしたこともあった。

この親子を目当てで動いているならまだしも、単なる移動中に同じ個体かつ頻繁に出合うというのは、ヒグマの観察の歴が浅い身(2018年時点で2年程度)にとって不気味にも思えたし、不思議にも思えていた。

事態は深刻化。それでも未来は残された。

そんな親子とは、夏を境に出合わなくなった。

夏が過ぎ秋が深まり冬を感じるようになるころ、

この親子は市街地への侵入や車への突進・接触などを立て続けに起こし、

捕殺された。

捕殺されたのは親だけだった。

子1頭は野生下に残されたまま。

「0歳のヒグマが1頭で厳冬期を越すことはないだろう」なんて話していた。

しかし翌年の春。

現地で自然探索している友人より「MKの子がいた」という報告があった。

目鼻立ちがキリっとしていて、黒々とした個体。

外見の特徴からMKの子であろうと推測するまだ若い個体が単独でいたのだ。

どう冬を越したのが分からないが、人間の想像を上回る結果に。

後日、知床財団からも、「DNA検査の結果、MKの子が冬を越していたことが判明」という趣旨のリリースがあった。

しかし、その後、MKの子の姿が報じられることはなかったが、

初めて出合ったときと同じように、森の中で生活し、人の気配を感じたら森の中へ姿を消すような存在であったほしいと切に願う。

 

生きていれば7歳だ。

こんな、作文を作っているときに知床に住む友人から1本の連絡が入った。

「なまらデカい、真っ黒のやつがいた」と。

少し期待してしまうが、危険な香りがするのは間違いない。 

 

当時の行動記録の手記より

 

p.s.

MKと呼ばれた個体に愛着があったのは、
・はじめて親子のヒグマを観察した個体であったこと
・makoto kobayashi のイニシャルがMKであること
なんか勝手に親近感を覚えていたのである。