私たちノノオトを立ち上げるきっかけは、知床半島の中で起きたできごとでした。
 だからこそ活動の始まりは、この地から始めたく、ノノオトとして最初の活動がこの企画写真展になります。

 知床半島という地での自然との関わりにおいて、その一つひとつの判断が「常に制度的・倫理的な要請と完全に最善を尽くすことができたのか」と問われれば、その答えには一定の思索を要します。
 けれども、そうした問いを立て直す過程こそが、自然との関係性をより深く理解し直す出発点であり、「距離」や「関わり方」の意味、そして人と野生を隔てる目に見えない境界線の存在を、あらためて見つめ直す契機となっています。

 たとえば、自然公園法第37条や知床国立公園管理計画書が定める、「野生動物に接近しない」「待ち伏せしない」といったルールは、ただの形式ではなく、そこに生きる動物たちと私たちとの間に保たれるべき健全な距離、すなわち共存のための境界線を示しています。
 ヒグマとの距離は、写真映えや好奇心の延長ではなく、命と命のあいだに必要な“間合い”でもあります。

 たとえ直接的に餌を与えなかったとしても、落とされた食べ物やポイ捨てから“味”を覚えさせてしまうことで、彼らの行動は変わり始めます。
 人間の食べ物は野生動物にとっては毒にもなりうるという科学的な知見も広く知られており、健康を損ねるばかりか、時に命に関わる深刻な影響を与える可能性もあります。

 この写真展では、「どこに立ち、どう関わるのか」という感覚――

 触れることなく寄り添うようなまなざしで、私たちなりに再確認したその距離感を、作品を通じて共有したいと考えています。
 そして来場された方々にも、ご自身の中にある“自然との適切な距離”を見つめ直すきっかけとして受け取っていただけたらと願っています。

 ルールを守りながら、境界を越えず、けれども深く寄り添い、感じ取り、伝えていく。
 その積み重ねこそが、自然豊かな知床を、次の世代へと誇りをもって引き継いでいくための力になると、私たちは信じています。
 それが、この写真展を通して、私たちが伝えたいことです。

代 表 廣瀬 正人
副代表 小林  誠